あらすじ
かなりヘビーな内容ですが、発売以来、その人気は常に右肩上がりのコミック『残酷な神が支配する』ご存知でしょうか?
近親相姦、ドラッグ、性的虐待、同性愛、売春などなど…
およそ現代の闇社会をあぶり出す衝撃的な内容で話題沸騰中!!
さて、いったいどんな内容なんでしょうか?少し覗いてみましょう。
皆さん、覚悟はいいですか?
主人公ジェルミ
最初の舞台はアメリカ、マサチューセッツ州のボストン。主人公ジェルミは母親サンドラと二人暮らしの男子高校生。
ボランティア活動やバイトにいそしむ傍ら、恋人ビビとのドキドキする時間、仲間たちとのキャンプなど、楽しい日々を送っています。
夫を亡くして以来、母親サンドラはアンティークショップで働き、家計を支えてきました。
美しいサンドラは、ジェルミにとって自慢の母親。
昔は優雅な生活を送っていたサンドラですが、今はそんな栄光(?)に浸っている余裕などない貧しい暮らしぶり…。
ですが最愛の息子、ジェルミのお蔭で幸せな毎日を送っていました。
そんなある日、一人の英国紳士がアンティークショップにやってきます。名前はグレッグ・ローランド。
有数の資産を持つイギリスの大金持ちです。
ひょんなことから、このグレッグ・ローランドとサンドラは恋に堕ちます。
「夢にまで見た、お金に困らない生活!!」
たくさんの高価な贈り物に目を輝かせる母、サンドラ。その横でジェルミは憎悪と嫌悪の間で、一人もがき苦しむことに…。
なぜなら、このグレッグ・ローランドという男、実は少年愛者であり、秘かに狙っていたのはジェルミだったのです!
大好きな幼なじみの恋人ビビもいることですし、ジェルミは必死に抵抗しますが、母親との婚約破棄を盾に関係を迫る変態男グレッグ。
ついにサディストの手に堕ちたジェルミは底のない、葛藤の渦に巻き込まれていきます。
ジェルミの葛藤と殺意
自分の息子がエライ目に合わされていることなどつゆ知らず、とうとう億万長者のグレッグと結婚できたサンドラは有頂天!
イギリスのリン・フォレストにあるグレッグの豪邸に住むと言い出します。
当然、ジェルミは断固拒否!
ですがグレッグから「あの件はなかったことにしよう。反省している」と懺悔の念を散々聞かされたジェルミは「カードのジョーカーを握っているのは僕だ!」と気づき、母親とのイギリス行きを決意します。
ですがグレッグの懺悔は口からのでまかせ、リン・フォレストでの性的虐待はさらにエスカレートしていきます。
行き場を失ったジェルミの中に芽生える殺意…。
とうとうジェルミは、このサイコパスな養父を殺す計画を企て、実行に移します。ですが、ここで大きな誤算が!
なんと最愛の母、サンドラまで巻き添えになり、死なせてしまいます。
帰らぬ人となったサンドラの葬儀のシーン。実は、物語はここからスタートします。
葬儀場では、名家ローランド家に関わる親戚や友人達の、心ないヒソヒソ話が聞こえてきます。
そんな中、今回の2人の事故に不信感を募らせる人物が1人。彼の名はイアン・ローランド。そう、グレッグの長男です。
このローランドもまた、一筋縄ではいかない複雑さを持つ青年ですが、父親のようなサディスティックさはなく、むしろ物語の随所でジェルミを助ける役割を果たします。
ところで殺害ターゲットのグレッグは…といえば、葬儀の段階では意識不明の重体で入院中。
ですが、やがてこの人もまた帰らぬ人となってしまいます。
助け舟を出す青年イアン・ローランド
グレッグの長男で、亡き前妻リリアの忘れ形見の一人。
お金持ちの家にありがちな、鼻持ちならないお気楽なイケメンですが、要所要所でジェルミを助ける、憎めないヤツという設定です。
例えば毎晩、自分を陵辱しにやって来るグレッグに対し、憎悪の火花を散らすジェルミ。
そんな彼はグレッグや屋敷を毛嫌いしているのですが(そりゃ、そうですよね…)、ジェルミの態度をホームシックと勘違いしたイアンは「屋敷がそんなに嫌いなのか。でも明日からキミも寄宿舎で生活できるんだよ。仲間もできるかも」と励まします。
一気に希望の光が見えたジェルミ。今ではパスポートも取り上げられ、ボストンに帰ることすらできませんから、渡りに船です。
さらに同じ学校ではつっけんどんだけどイケメンで成績優秀、ボクシングの腕前もなかなかのものという目立つキャラのため、それだけでジェルミを助ける役割も果たします。
さらに物語の最後の方では全てに失望したジェルミが薬物中毒になってしまうのですが、そんな彼を探し出し、救いの手を差し伸べます。
母サンドラの精神性の弱さ
サンドラもまた特筆すべき箇所、満点の母親です。
実はこの人が一番タチが悪いと秘かに思ってしまうのは、わたしだけでしょうか??
実の息子ジェルミに自分のことを『サンドラ』と名前で呼ばせたり、次章『グレッグとサンドラの死』でも説明しますが、息子の虐待に不信感を募らせながらも、曖昧な態度を取ってしまったり…。
この『サンドラ』と名前で呼ばせる理由は、亡き夫とジェルミの声がそっくりだから。
そうやって夫の身代わりを、なんとなく息子に演じさせるあたり、精神的な疾患を感じなくもない。
夫の死後に交際した男性に振られたときも、手首を切って自殺を計るなど、子供がいる母親のとる行動にしては弱過ぎる…。
その結果、息子ジェルミは『弱い母を僕が守らなきゃ』と、グレッグというサディストに身を捧げる決意をしてしまう、という悪循環…。
グレッグとサンドラの死
コミック1巻の冒頭は、この2人の葬儀シーンから始まります。
物語中盤で息子ジェルミが受けていた虐待に、とうとう気づく母、サンドラ。
しかし彼女はグレッグを失いたくないばかりに、また真相を知るのが怖くもあり、最後まで真相を暴こうとはしませんでした。
その事実(母親は、息子の虐待に気づいていながら、息子を助けようとしなかった…)を知ったジェルミは「だれも助けてくれなかった」と絶望します。
その絶望が頂点に達したとき、彼の中で消すことのできない殺意がメラメラと音をたて、燃え広がっていきます…。
2人の死はグレッグが運転中の交通事故だったのですが、不審に思った長男イアンが挙動不審のジェルミに問いただします。
曖昧な答えしかかえってこないジェルミにますます不信感を募らせるイアン。
ついに、自分の手で真相を暴こうと躍起になります。
その過程で次々に明るみになる父、グレッグの本性。
イアン自身の実母であるリリヤの死…
リリヤの姉のナターシャまでも性的虐待の対象にしてきた事実…
ジェルミへの少年偏愛の決定的証拠など…
父親を信じていただけに、イアンの受けた衝撃は強く、当初再調査を依頼していた両親の事故を『原因は車』ということで処理することに…。
葬式の後、知らなかったといえ、被害者であるジェルミを散々責めてしまった罪悪感から、ジェルミを探し出し、厚生させようと努力します。
(失意のどん底に突き落とされたジェルミはアメリカに逃れ、男に身体を売って生計を立てるまでに…)
さらには途中から、このイアンもまたジェルミを徐々に好きになり…。
ジェルミを心理カウンセラーのオーソン先生に会わせたりと、心優しく手助けしようと奮闘します。
まとめ
いかがだったでしょうか。
ほんのかいつまんでのあらすじでしたが、迫力満点、憎悪と憎しみのオンパレード…。
いったい、どんな着地点が待っているのか…。
最後まで気になりましたが、そこは安心できる内容で締めくくられていて、圧巻の一言。
全体的に作者の力量を感じさせる壮大なスケールとなっています。
登場人物の多さや、それに伴う内容の複雑さ、ときには精神科のカウンセリング状態の内容で、とても書ききれる内容ではないのですが、その分、読みごたえは十分にありますよ。
2001年に完結していながらも、なお読み継がれている事実にもおおいに納得できます。
読んで考えさせられること満載の、衝撃のコミックだと思います。
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